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Encyclopedia of niime

tamaki niime okurimon

古都鎌倉から全世界へと届ける贈りもの。

2024 . 07 . 30

“地球を贈ろう。 鎌倉から世界へ”

2024.4.1。日本の古都・鎌倉。常に変化を繰り返し唯一無二の創造を追求し続けるブランドtamaki niimeによる一点モノのモノづくり、その新たな進化形である「純粋な国産」を表現し伝える場が誕生した。

その名も「tamaki niime okurimon」。

先染め織物・播州織産地の中心である“日本のへそ”西脇市に腰を据え、大量生産の時代に分業化が進んだ生産工程を自前のLabに集約、それらすべてを自分たちの目と手で検証し、従来の方法論にこだわらない、自由でかつ独自のアプローチで播州織を新解釈したtamaki niime。

産地に移住するのみならず織物職人に教えを請い、デザイナー自らが手を動かし機を織る。畑に種を蒔き、布の原材料であるコットンの栽培に着手する。己れの皮膚感覚に貫かれたそのシームレスなクリエーションは、衣食住の根本を見つめ直し、SDGsが叫ばれ始めるるよりも早くから地球の在り方に照らした、新しい時代・新しい暮らしの到来を予感させるものだったと言えるだろう。

ブランド誕生から20年目の節目の年に満を持して、糸をつくる紡績の工程も稼働開始、念願の一貫した内製化の体制が整った。自社の畑で栽培したコットンから原糸を紡ぎ出すことで「染」の工程とリンクし、~「織」~「編み」~「縫製」~「洗い加工」~「販売」~「発信」と、ついにモノづくりの流れがトータルに結びついた。

ひとつひとつの制作工程に心と目を配り、創意工夫を施し、それらを相乗させ、世界に一点だけの作品を産み出してきたtamaki niime。作品の細部に至るあらゆる部分がホームメイド、自前で創り出す純国産のモノづくりがいよいよスタートした。

素材の入手先を海外に頼り自給がおぼつかない日本のモノづくりの現状に強い危機感を持ち、優れた伝統技術を継承し、域内で様々なことが賄えて暮らしと生産が密接に繋がっていたかつての在り方・原点に立ち返り、なおかつ斬新な創造を試みてゆく。

それは既存のモノづくりを捉え直し、既成の概念を超えてゆく、tamaki niimeならではの挑戦だと言えるだろう。

全世界へ向け広くそんな「新たな日本のモノづくり」の発信の地となるのが、歴史と文化が息づく古都・鎌倉。

今回私は4月1日のオープンに合わせ、ヴェールに包まれていた新店舗「okurimon」を直に体感すべく、鎌倉の地を訪れてみることにした。

JR鎌倉駅に着いて江ノ島電鉄(江ノ電)に乗り換える。少し小振りでクリーム色と緑色のツートンカラーが特徴的な4両編成の列車が趣きある古都の街中を縫うように走る。3駅めの長谷駅で降りて改札を出る。沢山の外国人観光客が行き交う目の前の通りを渡って線路沿いの道を歩くとすぐ、正に徒歩1分の立地。「星ノ夜月ノ下」と名付けられた建物の1階に「okurimon」はある。

玉木はじめ睦美や阿江、そして新しいスタッフが迎えてくれた。店長の阿江から店舗の説明を受ける。

亀の甲の紋様がシンボリックに外壁や床にあしらわれているのが先ず印象的だ。それは、一般に“幾何学模様”と称される記号的な意匠ではなく、規則的でありながらも蠢(うご)めく生命体をどこか連想させる。

テーブル、棚、壁、灯り、扉…。選り抜かれた素材に深いインスピレーションを得て人の手を介した造形が有機的に組み合わされ絶妙のバランスで調和する。ひとつひとつに時空を経て此処に集った語り尽くせぬストーリーが内在し、それらの総体が「okurimon」という場を宇宙のように豊かに形成しているのを感じる。

閉じられた空間ではなく、引き戸になった扉は軽やかに開け放たれ屋外の自然の息吹を呼び込む。すりガラスのしつらえも細やかに、ディテールをつぶさに観ると手の業(わざ)の温かみがそこかしこに宿っている。

あらかじめの設計図などは用意されず、杓子定規ではない、手描きのスケッチをもとに、施工が成されているのだという。

緩やかな曲線を描く一枚板2枚が組み合わさったテーブル。表面に引かれたスクラッチのような無数の線は織機に並ぶ経糸をイメージしたものだそう。テーブルの台の側面には亀の甲模様が刻まれている。創りながらその場その時の感性を働かせて定着させる。その手法は生の営みの証のようだ。

珪藻土の壁に入ったひび割れをあえてその上に自在な線を描き補修を施す。あたかも珪藻土のマチエールの上にドローイングするように。

その壁から生え出たようにひとつひとつが異なるフォルムの棚に、tamaki niimeの作品たちが置かれている。

青くペインティングされた雄鹿のスカル。天井を這う蔓(つる)と葉はよく目を凝らすと鉄製なのだがまるで自然物のような質感を湛えて伸びやかに空間を彩る。その蔓と交感するようにショールが掛かっている。

一番奥の棚の上には、ショールに加えてセーター、ジーンズなどが。それらtamaki niimeによる「純粋な国産」作品たちに添えられた小さな布片には、原材料の「綿」づくりから「紡績」「染色」「整経」「製織」「ネームタグ」「デザイン」「洗い」…等々、tamaki niimeを中心に工程に関わったすべての社名が誇り高く印字されている。

「okurimon」の店舗となる空間を、想いを込めて創造したのは地元鎌倉に根差し建築を手掛ける「team kamakura」。

「出来た瞬間が建築の完成ではない。この空間はここから熟成が始まる。その熟成さえもが建築。」

「team kamakura」代表の言葉である。

オープン時が完成形であってあとは古びてゆくのみではない、人が介在し周囲の自然環境と交歓しながら成長・成熟してゆく、従来の建築の概念を一変させてしまうような店舗空間。その在り方はまるでしなやかな生きもののようだ。

「okurimon」とは、tamaki niimeの作品たちと拮抗しながら高次元で親和する、特別に設られた器なのかもしれない。即興も活き活きと取り入れながら、まるで命ある存在のようにフレキシブルなこの空間の生成過程は、tamaki niimeの創作と驚くほど似ている。

遊び心と仕掛け、柔軟さ、偶然性、驚き…そして美しく、唯一無二であること。

世界に誇れる日本の播州織。その新たな可能性を体現するtamaki niimeのモノづくり、その中でも純度100%の国産作品を展示し販売する場として、ブランドに内在するポテンシャルを十全に引き出すための舞台として、正に相応しい空間だと感じる。

古都・鎌倉の街並は独特だ。

開け放たれた引き戸のすぐそばをコトコトと「江ノ電」の電車が往来する。開放感と解放感。距離の近しさ。

観光客で賑わう鎌倉大仏、長谷寺。その喧騒とは対照的にもっとも古い社殿であるという甘縄神明宮の密やかな佇まい。鎌倉のまちには底知れない奥深さがある。

寺社をはじめ貴重な歴史遺産や緑豊かな山と美しい浜辺に恵まれた自然環境、長年に渡って醸成された風雅な街並みが揃う鎌倉。日本における市民によるナショナルトラスト運動の発祥の地であり、市街地全域が景観計画区域に指定されてもいる。

三方を豊かな森に囲まれ穏やかな浜辺から果てしない海へと開かれたまちー。

「okurimon」から由比ヶ浜まではほんの数分。緩やかな弓状の浜辺に寄せては返す波。その波は太平洋を経て世界へと届く。

古都・鎌倉に届く波動を感じ取りながら、新次元のtamaki niimeが始動する。

日本文化の粋を今に遺し、世界各国から人を呼び込むこの地は全世界へ向け「純粋な国産」のモノづくりを発信するにふさわしい、地球とtamaki niimeの接点なのだ。そう実感した私だった。

“地球を贈ろう。 鎌倉から世界へ”

ぜひ鎌倉を訪れて、まちと自然と歴史と、「okurimon」の空間とtamaki niimeの作品たち、すべてが、相互に・親密に作用し合う、稀有な場を直に体感していただきたい。

Original Japanese text by Seiji Koshikawa.
English translation by Adam & Michiko Whipple.