niime 百科
Encyclopedia of niime
いのちの循環 動物と地球と創造について
〈前編〉
いのちの循環 動物と地球と創造について
〈前編〉
〈前編〉
〈前編〉
2024 . 11 . 25
tamaki niime muraのshowroomとLabがある母屋に接して、羊や山羊、鶏、アルパカ、馬…たくさんの動物たちが放牧されている。それぞれに敷地内で居心地の良い場所を見つけ、新しい生命も誕生しているniime村。
播州織の新たな可能性を模索し、伝統産地に革命をもたらしたショールを開発、その後一点モノの作品たちは様々にヴァリエーションを広げ、私たちの暮らし・衣食住に心地よく結びつき、さらにtamaki niimeの地球視座のモノづくりの探究は留まるところを知らずに、生きることの根源的な意味を掘り下げて行った。
洗練された作品展示の場showroomと日々のクリエーションと実験の場Lab、そのすぐ隣に人とは異なる動物たちの暮らしの営みとコミュニティが存在する様子は一種アヴァンギャルドであり、その当たり前ではないtamaki niime muraの有り様は、自然とは切り離され五感の豊かさを喪失しつつある現代社会に生きる私たちへの問いかけをも含んでいる、そんな風に思える。
今回のniime百科は、“なぜ動物との共生なのか?”を玉木と酒井に存分に語ってもらおうと考えスタートした。いつもの如くのっけから二人の話はあちこち寄り道をしつつ、結果、tamaki niimeの根本部分に深く分け入るトークとなった。
玉木「今年で20周年になって。」
—— tamaki niimeブランド創設20周年ですね。
玉木「これまでもずっと考えて来てはいるけど、今年は色々と考えさせられることが多くて。…変化がいつもより多いなと。私自身の「気づき」も多いし。」
—— はい。
玉木「最近白水さん(※)と月一でしゃべる機会をつくってるんですよ、私たち。」
(※)福岡県八女市に拠点を置く地域文化商社「うなぎの寝床」前代表、現「うなぎの寝床」創業者顧問、「株式会社白水」代表の白水高広氏。
—— 先日tabe roomでお話されてましたね。
玉木「そう。私と酒井がスタッフと喋るのは、どうしても上下の情報伝達になっちゃう。…だからディスカッションができない。もちろん、現場の問題は議論できるんだけど…わかる?」
—— もっと根本的な部分についての…でしょうか。
玉木「未来へ向けて、tamaki niimeはどう“生きて”いくんだーーッ!!?、みたいな、壮大なストーリーを私は語り合いたいのに…その話になった途端、皆んなシーン……。。って、ああそうなんですね、頑張ってください…みたいな感じになるんよ。全然おもんないわと思って。」
—— …どうしてそうなるんでしょうね??
酒井「たぶん、玉木の壮大なヴィジョンは、僕としゃべるとツーカーなんスよ。でも、スタッフに対して玉木が“ツー”のまましゃべると…」
—— “カー”が返ってこないと。
酒井「そうそう。断片でしゃべる人やから、玉木は。その言葉の断片を組み立てられない感じなんですよね。」
玉木「想像が繋がらないのよね。」
酒井「こんなヴィジョンがあるねん!というのをバラバラバラッと投げるタイプやから。僕の場合は要点をなんとなく掴み取れちゃうんで、ツーカーでしゃべれるんですけど。」
—— う~ん……。。
酒井「でも、白水さんとはわりとそれができるんやな?」
玉木「そこを上手に…ある種、酒井と私を足して2で割ったようなタイプの人だから。」
—— 感性の豊かさとロジカルな思考を合わせ持っていて、そこを上手に組み立てられる人なわけですね。
玉木「そうなの。まとめて図式化して提出してくれる。そうそうそれが言いたかったの、よくわかったなぁ……。みたいな感じなんやな?」
酒井「白水さんは元々建築系の人やから、構築が得意なんですよ。」
玉木「良いなぁと思って。それで私の脳はリフレッシュされてるんですけどね。niime村の今後についても、ぼやけていたところを、言語化というか、ちゃんとまとめてゆく作業に入ってて、優先順位をつけてどう進めて行くか?みたいな作戦会議を今3人でしてんねんな?」
酒井「うん。」
玉木「言語化してなくても私的には断片同士が紐付いてると思ってるんやけど。今やってることと未来が、私の中では一本の道で繋がってるんですよ。色んな要素が時系列ではなく、ポンポンポンと現れて。目指しているこの未来に対して私は、あ、このパーツいける、こうなる、と瞬間的に選ぶじゃないですか?でも、それを選び取る理由とかは言語化できないんですよ。「え?だって、必要だから。」って感じなんですよ。」
—— 理由付けなしで。
玉木「だから、「niime村」にしても、どう組み立てていってどうゴールに結びつけるかは、とりあえずやってみる、ってことになって、こっちの方が先だわ、でもこっちの方がやりたいな、あ、でもこっちも…みたいな。なんとなくちょっとずつ出来ていって、最終的には全部が繋がった、という感じになるんだろうけど、最終的な構想を言語化して全部説明してと言われると…私にも未来のカタチは見えてなくて、いま目の前にあるこれをこうこうこうして…ってやってるうちにおのずと目指す方向に収れんしていくと思っているんですけど。」
—— パズル的ですよね。
玉木「うん。」
—— プラモデルではないというか。あらかじめ図面があって構築するというよりも…
玉木「完全にパズルなの。それぞれバラバラのパーツがあってこことここが繋がるねん!みたいな世界。…そこが通じない。どうしたらいい?」
—— そこを白水さんは…
玉木「繋いでくれる人。「うなぎの寝床」さんとはお取引きさんでもあるし、白水さんとは長い付き合いだから、フリーになったということでこれからどうやって行くのかを聞かせてもらう機会があって、面白いからウチにも絡んでよ、と。」
酒井「僕が誘って、彼にオファーをかけて、一緒にやることになったんです。玉木の頭の中はパズルの断片で満ちているとして、僕はそれを体系的に捉えて、その時その時に今どうゆう要素を差し込めばtamaki niimeとしてのヴィジョンの実現速度が加速するのか、ということを常々考えて来て、色んな意味で白水さんが良いんじゃないかとお願いしたんですけど、案の定マッチして。」
—— で、月イチの作戦会議をやることに。
玉木「7月からまとめ役として入ってくれることになったの。始まってすぐに新しい事業のアイデアももらえて、一気に色んなことが進んできて。」
酒井「でも速いよな、やっぱ。話が。彼もまた経営者やからさ。」
玉木「tamaki niimeとはなにか?というところを、今一生懸命に言語化してくれてる。」
—— 白水さんとのディスカッションで出てきたtamaki niimeを表す言葉とは?
玉木「最初のヒヤリングの時に話を聴いて「こうゆうことですかぁ~?」ってサッとまとめてくれて。彼が言ってくれた言葉に、それーーーッッ!!!ってなったんですよ。」
(玉木が白水さんからの提案書を出してきて読み上げる)
玉木「行きますよ。彼としては、「動物の文脈がとても面白いなと思っていて、なんでやってるんだろう?と疑問だったんですが、tamaki niimeがやっていることは
1 いのちの生まれ方……モノづくり、生命の誕生
2 いのちの燃やし方……生き方、しくみ
3 いのちの終わり方……死
という、いのちの軸で、テキスタイルも動物も、「いのちの生まれ方」というクリエーションで同じなんだと発見がありました。」
—— なるほど。tamaki niimeの本質に触れている言葉だという気がします。
玉木「そうです!それです!!、って言ったの。」
—— すごく腑に落ちるじゃないですか。
玉木「そうなのよ。」
—— 少し離れた視点から捉えたtamaki niimeということで、クリアになったところもあるのではないでしょうか。
玉木「だからこれを総称して、「いのちの循環」が良いなと。」
紡績を加えて、素材であるコットンづくりから販売に至るまでのすべての工程が純度100%、自社~国内完結し循環するtamaki niimeならではの新たなモノづくり、自然豊かな環境の中で動物達と交わり、人としての暮らしをも見つめ直し進行する、tamakin niime独自のアプローチを「いのちの循環」と呼び表すことにした。
先に掲げた「純粋な国産」であることに何ら変わりはないが、今の時代にともすれば内実には関係なくイメージとして消費され流れて行ってしまう危惧がある“純国産”という言葉を、ことさら強調したいわけではなかったと玉木は言う。
玉木「何かと問われれば、「いのちの循環」を自分たちの手で創り出している。そんなモノづくりなんだよ、ということなの。それは唯一無二だから。」
—— 唯一無二にして、いのちの営みの根本ですよね。
酒井「玉木の思考が止まることはないんで、そのフルスピードでガーッと回っている思考を遮られるのを玉木は嫌うし、ヴィジョンを実現しようとすれば、周囲の僕らもそのスピードに合わせる必要があるんですよ。そうゆう意味では白水さんはレスポンスも無茶苦茶速いんで、玉木と並走してくれているというか。」
玉木の思考速度を緩め歩みを緩めることは20年間常に変化・変態を繰り返してきたブランドtamaki niimeの在り方を損なうことにつながるのかもしれない。
酒井「スタッフに言葉を投げても伝わらないと玉木が嘆いたのは、そもそもその同じフェーズに玉木がいないからだと思うんですよ。それはどちらが悪いとかいう話じゃなくて。スタッフからすれば遠い遠い未来に彼女の意識はあるから。合わせようとするとそれこそ後戻りしないといけないという。そうなっては僕は駄目だと思うから、玉木の思考の鮮度が落ちないようにするのが僕の仕事というか。」
—— 酒井さん、すごい今日はいつになくロジカルに語ってもらってますね。
玉木「…というあれこれを踏まえて、なぜ動物を飼うのか?の話に入って行くが良いかなと思ったの。」
—— 羊の赤ちゃんも生まれてますし、まさに「いのちの循環」ですよね。
玉木「ホントは私自分で子どもを産みたかったんですけどね、このniime村で。いのちの循環を知りたいなと思って。」
—— …。
玉木「病院で産むんじゃなくて。昔は皆んな家で出産してたわけでしょう?で、家で死んでたわけでしょう?」
—— 私は家で産婆さんに取り上げてもらって産まれた世代ですね。
昭和30年代生まれ。西暦で言えば1960年代前半、高度経済成長期に生まれ育った私の世代は60代を迎えた。当時の私たちの幼少期は、日本の田舎の自給自足的・伝統的、言い換えれば前時代的な農村社会の暮らしが徐々に消費社会に侵食される転換期だったとも言えるだろう。
玉木「その時代が豊かだったような興味がある。」
—— 経済的には豊かではなかったと思いますけども。
玉木「こころの豊かさ。生きる豊かさってゆうか。」
—— 貧しいけど暮らしはのんびりしてて、今のように時間に追われてはなかったと思います。田んぼや畑や、野山や川の幸を上手く活かして大人の生業も子どもの遊びも、四季折々の自然とともにあったというか。
玉木「電子レンジなんてなかったでしょ?」
—— もちろん。冷蔵庫も(白黒)テレビも普及し始めた頃で。お母さんたちは川で洗濯してたし、味噌なんて自家製で、大きな樽を置く部屋がありましたよ。
酒井「人も動物も、子どもが生まれるとかって、クリエイティヴの本質やと思うんですよね。」
—— 確かに。
酒井「モノづくりってある意味作為的な部分てあるじゃないですか?でも子どもが生まれてくる過程って無作為で。ある程度のコントロールはできるのかもしれないけど、予測は出来なくて。そこがいわゆるモノづくりと違うところで。モノづくりの場合は目視ができるから、こうすればこうなるよね、って予測が付くけど、人にしろ動物にしろ生まれるまでわからない。そうゆう意味では、「いのちの循環」ってこと自体が、これまでtamakiniimeとしてやって来たことだし、これからもtamaki niimeがやってゆくことだと思うんですよね。」
—— tamaki niimeのクリエーションは予測不可能性をはらんでいるというか。
酒井「そうそうそうそうそうそう。モノづくりって、本来そうあるべきだと思うんですよね。」
玉木「ねばならぬに縛られ過ぎるやん?」
酒井「うん。」
玉木「もちろん、ビジネスとして継続してゆくために、色んな取捨選択はいる。」
酒井「人間領域ではな。」
玉木「もちろん。でもそれは生き残ってゆくために、生存戦略としても、ある。」
酒井「うん。」
玉木「ビジネスとして取捨選択してるように、生きるということに対しても、オス同士が闘ってポジションを決めるとか、メスは出産後すぐにまた子を宿せる身体になるとか。それって、本能的であるようだけど、たぶん、色んな取捨選択の結果成り立っているような気もする。」
—— う~ん…。。
玉木「わかる?その生きている時間に、その動物が、その時その時で闘いを挑むのか諦めるのか?も、本能だけではなく、全部判断はしてるやん?自分は今どう生きるのがベストなのかを、状況を目の前にして考えてる気がする、動物は。」
酒井「考えてはないと思うな。感じるやな。」
玉木「身体で感じてる。そして行動に移してる気がする。でも人間は脳が大きくなってしまったがゆえに…」
酒井「五感が退化してる。」
玉木「五感が退化して。私が言ってるのは頭で考えるんじゃなくて“腹”で考えるや。全く考えないことが良いとは思わないけど、頭で考えるということが最上と思ってるうちは感じられてないと思う。考えることを手放さないと駄目なの。」
—— …考えに囚われずにそれを振り切る。
玉木「一度考えを頭に入れて全部それをパッと手放した時に、新たな何かが生まれる。それがたぶん、生きるってことの上での「(腹で)考える」ってことやと私は思うから。本来は人間のクリエイティヴも、そうであるべきだと思う。そこを伝えるのがむずい…。」
アートの感覚。マニュアルが用意されて教えられるロジカルなものではない、「気づき」に基づく判断と選択の繰り返しが創造にもたらすものは大きい。
玉木「それって、学校で教えられるものじゃないし、体感して気づくことだから。皆んなも気づいてほしいけど、こればかりは経験しないと。頭で考えに考えて考え尽くした末に、考えに囚われるところから自由になって次のステージがやってくるということかな。」
酒井「職人の世界じゃないけど、観て学ぶ。今の世の中、情報過多というか、資本主義社会がそうしたんですけど、これからは逆に五感を研ぎ澄ますフェーズに入ってゆくと思うんですよ。」
DNAレベルで刻み込まれ受け継がれてゆく何か。五感で身体に刻み込む。ネット上での情報が過剰に氾濫し消費されてゆく現代社会で、最も軽んじられていることなのではないだろうか。
酒井「動物と触れ合うことで、人間社会との違いを感じるというか。動物さんたちから学ばせてもらうことって無茶苦茶あるよな?人間と話すより、全然感覚の世界やもんな。」
玉木「言葉は必要なくて“行動”と“行動”だから。頭で考える必要がないから、楽。もちろんささやき掛けたり、言葉も発するけども、文章ではなく単語よね。」
酒井「もっと言えばそれって、音の振動やん。」
玉木「うん。波動。」
酒井「動物たちにとっては「元気~」とか「可愛いね~」とか、良い波動なわけやん。だからもう、言葉というよりは、振動レベルよな。」
例えば、お年寄りが孫に語り次いで来たその土地々々の昔話。例えば、アイヌ民族の間で口承文化として伝わる叙事詩『ユーカラ』。物語を代々受け継ぎ伝え媒介するのは温もりに満ちた人の声の音色だったりトーンの豊かさであるだろう。
酒井「玉木が何かを言葉を発してワーッて伝えるってゆうのは、だから振動なんですよ。そこでスタッフにとっては??になるんですよ。僕と玉木は、振動レベルでなんとなくやれてるから。」
玉木「だって、動物だもん。」
酒井「そうそう。」
玉木「でも今は、皆んなにはエネルギーを送るだけで良いんだって思ってるから。話す内容はどうだって良いんですよ。一つ一つまでは覚えられないだろうし。」
酒井「覚える必要もないしな。」
玉木「今日も元気に前向きに愉しくいきましょう!ってことが伝わればそれでいい。」
—— そのパッションが。
玉木「毎日愉しくやってる姿を見せて、毎日愉しくやろうぜ、ってなってくれれば。大事なのはエネルギーでしょ?だから、良いエネルギーを伝える。ヤル気のスイッチを押す。」
酒井「良い波動が結果、また良い波動を産んで続いて行くという。継承されてゆくというか。そっちの方向にtamaki niimeは向かってるね。」
物事の本質を身体で読み取るためのツール、あくまでもそのためのヒント、入り口として言葉というものは存在しているのかも知れない。大切なのは、その場その場で感応し合うこと。
酒井「遠く未来を見通せば、たぶん、言語という領域は超えるはずなんですよ。tamakiniimeが目指しているところって、愛なのかもね。「愛してるよ。」という言葉ではなく、感じ取り合える愛というか。」
玉木「いのちは愛だからね。」
酒井「ほんとにそう。」
玉木「最近私が思うのはね、宇宙があって、地球があるじゃないですか?その中に空気も、水も、植物も、昆虫も、動物も、人も、全てがあって地球でしょ?」
—— はい。
酒井「全てが。」
玉木「良いものも悪いものも、全部ひっくるめて、地球なんですよ。地球の上にいろんな要素がいっぱいある中の、越川さんなの。ってことは、越川さんて、地球なんですよ。」
—— …???
〈後編へと続く〉
書き人越川誠司
tamaki niime muraのshowroomとLabがある母屋に接して、羊や山羊、鶏、アルパカ、馬…たくさんの動物たちが放牧されている。それぞれに敷地内で居心地の良い場所を見つけ、新しい生命も誕生しているniime村。
播州織の新たな可能性を模索し、伝統産地に革命をもたらしたショールを開発、その後一点モノの作品たちは様々にヴァリエーションを広げ、私たちの暮らし・衣食住に心地よく結びつき、さらにtamaki niimeの地球視座のモノづくりの探究は留まるところを知らずに、生きることの根源的な意味を掘り下げて行った。
洗練された作品展示の場showroomと日々のクリエーションと実験の場Lab、そのすぐ隣に人とは異なる動物たちの暮らしの営みとコミュニティが存在する様子は一種アヴァンギャルドであり、その当たり前ではないtamaki niime muraの有り様は、自然とは切り離され五感の豊かさを喪失しつつある現代社会に生きる私たちへの問いかけをも含んでいる、そんな風に思える。
今回のniime百科は、“なぜ動物との共生なのか?”を玉木と酒井に存分に語ってもらおうと考えスタートした。いつもの如くのっけから二人の話はあちこち寄り道をしつつ、結果、tamaki niimeの根本部分に深く分け入るトークとなった。
玉木「今年で20周年になって。」
—— tamaki niimeブランド創設20周年ですね。
玉木「これまでもずっと考えて来てはいるけど、今年は色々と考えさせられることが多くて。…変化がいつもより多いなと。私自身の「気づき」も多いし。」
—— はい。
玉木「最近白水さん(※)と月一でしゃべる機会をつくってるんですよ、私たち。」
(※)福岡県八女市に拠点を置く地域文化商社「うなぎの寝床」前代表、現「うなぎの寝床」創業者顧問、「株式会社白水」代表の白水高広氏。
—— 先日tabe roomでお話されてましたね。
玉木「そう。私と酒井がスタッフと喋るのは、どうしても上下の情報伝達になっちゃう。…だからディスカッションができない。もちろん、現場の問題は議論できるんだけど…わかる?」
—— もっと根本的な部分についての…でしょうか。
玉木「未来へ向けて、tamaki niimeはどう“生きて”いくんだーーッ!!?、みたいな、壮大なストーリーを私は語り合いたいのに…その話になった途端、皆んなシーン……。。って、ああそうなんですね、頑張ってください…みたいな感じになるんよ。全然おもんないわと思って。」
—— …どうしてそうなるんでしょうね??
酒井「たぶん、玉木の壮大なヴィジョンは、僕としゃべるとツーカーなんスよ。でも、スタッフに対して玉木が“ツー”のまましゃべると…」
—— “カー”が返ってこないと。
酒井「そうそう。断片でしゃべる人やから、玉木は。その言葉の断片を組み立てられない感じなんですよね。」
玉木「想像が繋がらないのよね。」
酒井「こんなヴィジョンがあるねん!というのをバラバラバラッと投げるタイプやから。僕の場合は要点をなんとなく掴み取れちゃうんで、ツーカーでしゃべれるんですけど。」
—— う~ん……。。
酒井「でも、白水さんとはわりとそれができるんやな?」
玉木「そこを上手に…ある種、酒井と私を足して2で割ったようなタイプの人だから。」
—— 感性の豊かさとロジカルな思考を合わせ持っていて、そこを上手に組み立てられる人なわけですね。
玉木「そうなの。まとめて図式化して提出してくれる。そうそうそれが言いたかったの、よくわかったなぁ……。みたいな感じなんやな?」
酒井「白水さんは元々建築系の人やから、構築が得意なんですよ。」
玉木「良いなぁと思って。それで私の脳はリフレッシュされてるんですけどね。niime村の今後についても、ぼやけていたところを、言語化というか、ちゃんとまとめてゆく作業に入ってて、優先順位をつけてどう進めて行くか?みたいな作戦会議を今3人でしてんねんな?」
酒井「うん。」
玉木「言語化してなくても私的には断片同士が紐付いてると思ってるんやけど。今やってることと未来が、私の中では一本の道で繋がってるんですよ。色んな要素が時系列ではなく、ポンポンポンと現れて。目指しているこの未来に対して私は、あ、このパーツいける、こうなる、と瞬間的に選ぶじゃないですか?でも、それを選び取る理由とかは言語化できないんですよ。「え?だって、必要だから。」って感じなんですよ。」
—— 理由付けなしで。
玉木「だから、「niime村」にしても、どう組み立てていってどうゴールに結びつけるかは、とりあえずやってみる、ってことになって、こっちの方が先だわ、でもこっちの方がやりたいな、あ、でもこっちも…みたいな。なんとなくちょっとずつ出来ていって、最終的には全部が繋がった、という感じになるんだろうけど、最終的な構想を言語化して全部説明してと言われると…私にも未来のカタチは見えてなくて、いま目の前にあるこれをこうこうこうして…ってやってるうちにおのずと目指す方向に収れんしていくと思っているんですけど。」
—— パズル的ですよね。
玉木「うん。」
—— プラモデルではないというか。あらかじめ図面があって構築するというよりも…
玉木「完全にパズルなの。それぞれバラバラのパーツがあってこことここが繋がるねん!みたいな世界。…そこが通じない。どうしたらいい?」
—— そこを白水さんは…
玉木「繋いでくれる人。「うなぎの寝床」さんとはお取引きさんでもあるし、白水さんとは長い付き合いだから、フリーになったということでこれからどうやって行くのかを聞かせてもらう機会があって、面白いからウチにも絡んでよ、と。」
酒井「僕が誘って、彼にオファーをかけて、一緒にやることになったんです。玉木の頭の中はパズルの断片で満ちているとして、僕はそれを体系的に捉えて、その時その時に今どうゆう要素を差し込めばtamaki niimeとしてのヴィジョンの実現速度が加速するのか、ということを常々考えて来て、色んな意味で白水さんが良いんじゃないかとお願いしたんですけど、案の定マッチして。」
—— で、月イチの作戦会議をやることに。
玉木「7月からまとめ役として入ってくれることになったの。始まってすぐに新しい事業のアイデアももらえて、一気に色んなことが進んできて。」
酒井「でも速いよな、やっぱ。話が。彼もまた経営者やからさ。」
玉木「tamaki niimeとはなにか?というところを、今一生懸命に言語化してくれてる。」
—— 白水さんとのディスカッションで出てきたtamaki niimeを表す言葉とは?
玉木「最初のヒヤリングの時に話を聴いて「こうゆうことですかぁ~?」ってサッとまとめてくれて。彼が言ってくれた言葉に、それーーーッッ!!!ってなったんですよ。」
(玉木が白水さんからの提案書を出してきて読み上げる)
玉木「行きますよ。彼としては、「動物の文脈がとても面白いなと思っていて、なんでやってるんだろう?と疑問だったんですが、tamaki niimeがやっていることは
1 いのちの生まれ方……モノづくり、生命の誕生
2 いのちの燃やし方……生き方、しくみ
3 いのちの終わり方……死
という、いのちの軸で、テキスタイルも動物も、「いのちの生まれ方」というクリエーションで同じなんだと発見がありました。」
—— なるほど。tamaki niimeの本質に触れている言葉だという気がします。
玉木「そうです!それです!!、って言ったの。」
—— すごく腑に落ちるじゃないですか。
玉木「そうなのよ。」
—— 少し離れた視点から捉えたtamaki niimeということで、クリアになったところもあるのではないでしょうか。
玉木「だからこれを総称して、「いのちの循環」が良いなと。」
紡績を加えて、素材であるコットンづくりから販売に至るまでのすべての工程が純度100%、自社~国内完結し循環するtamaki niimeならではの新たなモノづくり、自然豊かな環境の中で動物達と交わり、人としての暮らしをも見つめ直し進行する、tamakin niime独自のアプローチを「いのちの循環」と呼び表すことにした。
先に掲げた「純粋な国産」であることに何ら変わりはないが、今の時代にともすれば内実には関係なくイメージとして消費され流れて行ってしまう危惧がある“純国産”という言葉を、ことさら強調したいわけではなかったと玉木は言う。
玉木「何かと問われれば、「いのちの循環」を自分たちの手で創り出している。そんなモノづくりなんだよ、ということなの。それは唯一無二だから。」
—— 唯一無二にして、いのちの営みの根本ですよね。
酒井「玉木の思考が止まることはないんで、そのフルスピードでガーッと回っている思考を遮られるのを玉木は嫌うし、ヴィジョンを実現しようとすれば、周囲の僕らもそのスピードに合わせる必要があるんですよ。そうゆう意味では白水さんはレスポンスも無茶苦茶速いんで、玉木と並走してくれているというか。」
玉木の思考速度を緩め歩みを緩めることは20年間常に変化・変態を繰り返してきたブランドtamaki niimeの在り方を損なうことにつながるのかもしれない。
酒井「スタッフに言葉を投げても伝わらないと玉木が嘆いたのは、そもそもその同じフェーズに玉木がいないからだと思うんですよ。それはどちらが悪いとかいう話じゃなくて。スタッフからすれば遠い遠い未来に彼女の意識はあるから。合わせようとするとそれこそ後戻りしないといけないという。そうなっては僕は駄目だと思うから、玉木の思考の鮮度が落ちないようにするのが僕の仕事というか。」
—— 酒井さん、すごい今日はいつになくロジカルに語ってもらってますね。
玉木「…というあれこれを踏まえて、なぜ動物を飼うのか?の話に入って行くが良いかなと思ったの。」
—— 羊の赤ちゃんも生まれてますし、まさに「いのちの循環」ですよね。
玉木「ホントは私自分で子どもを産みたかったんですけどね、このniime村で。いのちの循環を知りたいなと思って。」
—— …。
玉木「病院で産むんじゃなくて。昔は皆んな家で出産してたわけでしょう?で、家で死んでたわけでしょう?」
—— 私は家で産婆さんに取り上げてもらって産まれた世代ですね。
昭和30年代生まれ。西暦で言えば1960年代前半、高度経済成長期に生まれ育った私の世代は60代を迎えた。当時の私たちの幼少期は、日本の田舎の自給自足的・伝統的、言い換えれば前時代的な農村社会の暮らしが徐々に消費社会に侵食される転換期だったとも言えるだろう。
玉木「その時代が豊かだったような興味がある。」
—— 経済的には豊かではなかったと思いますけども。
玉木「こころの豊かさ。生きる豊かさってゆうか。」
—— 貧しいけど暮らしはのんびりしてて、今のように時間に追われてはなかったと思います。田んぼや畑や、野山や川の幸を上手く活かして大人の生業も子どもの遊びも、四季折々の自然とともにあったというか。
玉木「電子レンジなんてなかったでしょ?」
—— もちろん。冷蔵庫も(白黒)テレビも普及し始めた頃で。お母さんたちは川で洗濯してたし、味噌なんて自家製で、大きな樽を置く部屋がありましたよ。
酒井「人も動物も、子どもが生まれるとかって、クリエイティヴの本質やと思うんですよね。」
—— 確かに。
酒井「モノづくりってある意味作為的な部分てあるじゃないですか?でも子どもが生まれてくる過程って無作為で。ある程度のコントロールはできるのかもしれないけど、予測は出来なくて。そこがいわゆるモノづくりと違うところで。モノづくりの場合は目視ができるから、こうすればこうなるよね、って予測が付くけど、人にしろ動物にしろ生まれるまでわからない。そうゆう意味では、「いのちの循環」ってこと自体が、これまでtamakiniimeとしてやって来たことだし、これからもtamaki niimeがやってゆくことだと思うんですよね。」
—— tamaki niimeのクリエーションは予測不可能性をはらんでいるというか。
酒井「そうそうそうそうそうそう。モノづくりって、本来そうあるべきだと思うんですよね。」
玉木「ねばならぬに縛られ過ぎるやん?」
酒井「うん。」
玉木「もちろん、ビジネスとして継続してゆくために、色んな取捨選択はいる。」
酒井「人間領域ではな。」
玉木「もちろん。でもそれは生き残ってゆくために、生存戦略としても、ある。」
酒井「うん。」
玉木「ビジネスとして取捨選択してるように、生きるということに対しても、オス同士が闘ってポジションを決めるとか、メスは出産後すぐにまた子を宿せる身体になるとか。それって、本能的であるようだけど、たぶん、色んな取捨選択の結果成り立っているような気もする。」
—— う~ん…。。
玉木「わかる?その生きている時間に、その動物が、その時その時で闘いを挑むのか諦めるのか?も、本能だけではなく、全部判断はしてるやん?自分は今どう生きるのがベストなのかを、状況を目の前にして考えてる気がする、動物は。」
酒井「考えてはないと思うな。感じるやな。」
玉木「身体で感じてる。そして行動に移してる気がする。でも人間は脳が大きくなってしまったがゆえに…」
酒井「五感が退化してる。」
玉木「五感が退化して。私が言ってるのは頭で考えるんじゃなくて“腹”で考えるや。全く考えないことが良いとは思わないけど、頭で考えるということが最上と思ってるうちは感じられてないと思う。考えることを手放さないと駄目なの。」
—— …考えに囚われずにそれを振り切る。
玉木「一度考えを頭に入れて全部それをパッと手放した時に、新たな何かが生まれる。それがたぶん、生きるってことの上での「(腹で)考える」ってことやと私は思うから。本来は人間のクリエイティヴも、そうであるべきだと思う。そこを伝えるのがむずい…。」
アートの感覚。マニュアルが用意されて教えられるロジカルなものではない、「気づき」に基づく判断と選択の繰り返しが創造にもたらすものは大きい。
玉木「それって、学校で教えられるものじゃないし、体感して気づくことだから。皆んなも気づいてほしいけど、こればかりは経験しないと。頭で考えに考えて考え尽くした末に、考えに囚われるところから自由になって次のステージがやってくるということかな。」
酒井「職人の世界じゃないけど、観て学ぶ。今の世の中、情報過多というか、資本主義社会がそうしたんですけど、これからは逆に五感を研ぎ澄ますフェーズに入ってゆくと思うんですよ。」
DNAレベルで刻み込まれ受け継がれてゆく何か。五感で身体に刻み込む。ネット上での情報が過剰に氾濫し消費されてゆく現代社会で、最も軽んじられていることなのではないだろうか。
酒井「動物と触れ合うことで、人間社会との違いを感じるというか。動物さんたちから学ばせてもらうことって無茶苦茶あるよな?人間と話すより、全然感覚の世界やもんな。」
玉木「言葉は必要なくて“行動”と“行動”だから。頭で考える必要がないから、楽。もちろんささやき掛けたり、言葉も発するけども、文章ではなく単語よね。」
酒井「もっと言えばそれって、音の振動やん。」
玉木「うん。波動。」
酒井「動物たちにとっては「元気~」とか「可愛いね~」とか、良い波動なわけやん。だからもう、言葉というよりは、振動レベルよな。」
例えば、お年寄りが孫に語り次いで来たその土地々々の昔話。例えば、アイヌ民族の間で口承文化として伝わる叙事詩『ユーカラ』。物語を代々受け継ぎ伝え媒介するのは温もりに満ちた人の声の音色だったりトーンの豊かさであるだろう。
酒井「玉木が何かを言葉を発してワーッて伝えるってゆうのは、だから振動なんですよ。そこでスタッフにとっては??になるんですよ。僕と玉木は、振動レベルでなんとなくやれてるから。」
玉木「だって、動物だもん。」
酒井「そうそう。」
玉木「でも今は、皆んなにはエネルギーを送るだけで良いんだって思ってるから。話す内容はどうだって良いんですよ。一つ一つまでは覚えられないだろうし。」
酒井「覚える必要もないしな。」
玉木「今日も元気に前向きに愉しくいきましょう!ってことが伝わればそれでいい。」
—— そのパッションが。
玉木「毎日愉しくやってる姿を見せて、毎日愉しくやろうぜ、ってなってくれれば。大事なのはエネルギーでしょ?だから、良いエネルギーを伝える。ヤル気のスイッチを押す。」
酒井「良い波動が結果、また良い波動を産んで続いて行くという。継承されてゆくというか。そっちの方向にtamaki niimeは向かってるね。」
物事の本質を身体で読み取るためのツール、あくまでもそのためのヒント、入り口として言葉というものは存在しているのかも知れない。大切なのは、その場その場で感応し合うこと。
酒井「遠く未来を見通せば、たぶん、言語という領域は超えるはずなんですよ。tamakiniimeが目指しているところって、愛なのかもね。「愛してるよ。」という言葉ではなく、感じ取り合える愛というか。」
玉木「いのちは愛だからね。」
酒井「ほんとにそう。」
玉木「最近私が思うのはね、宇宙があって、地球があるじゃないですか?その中に空気も、水も、植物も、昆虫も、動物も、人も、全てがあって地球でしょ?」
—— はい。
酒井「全てが。」
玉木「良いものも悪いものも、全部ひっくるめて、地球なんですよ。地球の上にいろんな要素がいっぱいある中の、越川さんなの。ってことは、越川さんて、地球なんですよ。」
—— …???
〈後編へと続く〉
Original Japanese text by Seiji Koshikawa.
English translation by Adam & Michiko Whipple.