niime 百科
Encyclopedia of niime
酒井のブランディング論
〈前半〉
Mr Sakai's Branding Strategy
〈 part 1 〉
〈前半〉
〈 part 1 〉
2021 . 03 . 15
玉木とともにブランドtamaki niimeを今日に至るまで構築し、そのブランディングに心血を注いできた酒井義範。 捉えどころのない独特の感性から生まれる常識に囚われない発想や思考。玉木との間で日々交わされる、弛まない議論がtamaki niimeの他に類を見ない発展の原動力となってきた。 今回の「niime百科」では、既存のセオリーには従わず、ロジカルなアプローチではなくとも本質を鷲づかみにする酒井独自のブランディング論をたっぷりと聞いてみた。 意表を突く奔放な発言の数々を字義どおりに受け止めることに固執せずに、感覚を自由に遊ばせて、酒井の言葉を感じ取ってみたい。 ― 酒井さんにとって、tamaki niimeのブランディングってゆうのは、自分にとっての“アート”であり、“表現”だという発言がありました。 酒井「表現ですね。」 ― そこが核心的な部分じゃないかと。 酒井「うん。常にね、「完成させない」ようにしてるんですよね。」 ― 完成させない。 酒井「だから、「あたりまえを疑え。」というフレーズもそうやし、僕の中では、ずっと「未完成の完成」やと思ってるから。」 ― う〜ん…。 酒井「(tamaki niimeに)わかりやすい定義づけをした方が良いんじゃないか、とか言われるんですけど、こっちが構え過ぎたらアカンのですよね。逆に、ウチの作品を観る人とか選ぶ人とか…受け止める人にある程度考えさせる。「考える」という能力をいまこの時代だからこそ身につけていかないと。これからあらゆることの日々の更新スピードが増してどんどん簡素化・自動化されてゆくから、今から自分で考える能力をつけておかなかったら、より考えなくなるから。たぶん皆んなアホになると思うんですよ。」 ― ほっておくと、物事がアッと言う間に目の前を通り過ぎちゃうみたいな。 酒井「そうそう。それくらいスピーディーやから。だからウチは、あえて完成させない、ってゆうか。」 ― はい。 酒井「いわゆるハイブランドというかファッションブランドには一貫した、完成された世界観があるでしょう?」 ― ええ、わかります。 酒井「なんとなくシュッとしてるとか。」 玉木「何々っぽいよね、ってやつ。」 酒井「そうそうそう。そうゆうのをあえてしない。ウチのInstagramなんかもそうだし、今までのブランディングにしても、「完成しない」ってゆうか。そもそも、ブランディングなんて完成しないからこそロマンがあるし、完成出来るもんやったら別にブランディングなんて要らんし。それってもう、エンドレスやからね。」 ― 必死になってブランドイメージを構築し終わったら、もう古くなってたみたいな。 酒井「そうそうそうそう。」 玉木「(ポツリと)…すぐ壊すもんな。」 酒井「もちろんすぐ壊すけどさ、オレだけじゃなくて、お前もそこに留まらないやん?」 ― 流動的ですよね。 酒井「そそ、そうなんですよ。」 玉木「飽きちゃうもんな。」 酒井「そうねん。ボクらは一貫してファッションブランドかって言われたらそうじゃないし、メーカーかって言われたらそうでもないし、じゃあ次は酪農やりたいって玉木は言い出してるし。」 ― (笑)。 酒井「だから、そういう意味では、ある程度振り幅が持てるようなブランディングはしてると思ってるんですよ。」 ― なるほど…。そうですよね。 酒井「僕たちってこうだよ、じゃなくて、けっこう広範囲に、そこにどんなもの投げ込んでも大丈夫なようにブランディングはしてると思いますよ。そこは心掛けてます。」 ― う〜ん…なんか“プール”みたいな。 酒井「はい!そうそうそう。」 ― そんな液体みたいな、定型がなくて固着しないブランディングポリシーというか姿勢は、もともと酒井さんの内に本質的にあったということですかね? 酒井「もう、本質的にありますね。もともと人といっしょのモノはイヤやし、どっちかってゆうと、小っちゃい頃から親がAと言えば僕はB行ってC。なんか、ずうっとそうやったんですよね。世の中がこうやったら別の方向へ行こうってことをずっとやって来てるから。」 玉木「いつから?」 酒井「もう物心ついた頃にはそうやったからわからん。オレにとってはそれがあたりまえやから。」 玉木「へそ曲がりということやな。」 酒井「へそ曲がりなんかな?」 玉木「人とは違う方違う方へ(笑)。」 ― いわゆる「反抗」的な感じともまた異なりますよね。 酒井「全然全然。そんな反骨精神とか、パンクって感じでもないし。」 ― ふらふら〜って言ってましたよね。(笑)。 酒井「自然とこんな風に。」 ― つかみどころの無さが。 酒井「そう。」 玉木「言うよね、◯◯と天才は紙一重って。」 酒井「お金はパッパと使うし。」 玉木「なんも計画性がない。」 酒井「ないな〜。ないない。」 ― でも、玉木さんからの“無茶振り”があるとして、それをバシッと受け止めてバシッと返せるでしょ? 酒井「それは出来ますね。はい。」 ― ショールが誕生した時の、玉木さんからの「全国津々浦々まで広めたい。そして世界へ。」それだけを聞けばもう勝手にブランディングや営業が出来ちゃったわけじゃないですか。 玉木「皆んなそれ出来ると思ったもんな。」 酒井「出来ると思った。」 玉木「じゃ次の人あなたも頼むね、よろしく!って。…え!?ってなったな。ひとつずつ言ってもらわないとわかりませんって。」 ― 普通はそうなんだとは思います。 酒井「逆にね、玉木にああしろこうしろ言われるのはイヤなんです。」 ― ウザイ、と(笑)。 玉木「眉間にシワ寄せて(笑)。」 酒井「簡単なワードをボクにポンポンって放り投げてくれて、あとはあなたに任せたよ、くらいな方が…」 ― その方が“遊べる”、みたいな(笑)。 酒井「そうそう、その方が面白いんですよ。」 玉木「駄目!すぐにイラッとされる。」 酒井「そう。だからやれって言われたことはイヤって言います。」 玉木「サラリーマンなんだから。」 酒井「うん。だからサラリーマン出来ないです。」 ― そこが酒井さんの表現、アートのフィールドってゆうか、自由度与えてくれよ、みたいな感じなんでしょ? 酒井「そうなんですよ。そもそも自由に生きて来てるから、そこもそうじゃないと、いい意味でチカラを発揮できないんですよね。」 ― 言いたいことのニュアンスはすごくわかります。 玉木「カゴの中の鳥みたいな感じやな?」 酒井「うん。」 ― 自分にとっては“遊び”なんだから、ヒントだけくれたらやっちゃうよ、という感じですかね。 酒井「その方が楽しいじゃないですか。」 ― そうなんだと思います。ただそこの境地まではなかなか一般人には難しいのではと。 酒井「スーパー直感型やな、オレってな。たぶん。」 玉木「スーパー直感型が、スーパー直感型じゃない人に仕事託すんやから、ちゃんと日本語で伝えんと。」 ― これまで酒井さんが手掛けてきたtamaki niimeのブランディングの軌跡ってゆうのは蓄積として遺っているわけだから、それをスタッフの皆さんにも共有してもらえれば良いだろうなと。 酒井「でもね、皆んなにひとこと言うなら、ボクが思うブランドやメーカーっていうのは、“理解された時点で終わり”なんですよね。」 ― おっと。 酒井「それはアーティストもいっしょで、その人の人となりが理解されてしまった時点でもうアウトで、やっぱ理解されない、そこになんかこう、“影”みたいなものとか、奥行きがあるからこそ、人は魅了されるし、魅力を感じるはずなんですよ。」 ― ああ…。 酒井「だからそこはずっと…考えてるよな?」 玉木(うなずく。) 酒井「だから話は重複してるけど、なるべく理解されないように…ある程度の理解は必要ですよ、例えばウチの作品が柔らかいとか着心地が良いとかってゆうのは事実じゃないですか。だけどtamaki niimeの全体を観た時に、「なんなんやろうな?こいつら」と思われないと、やっぱり面白くなくて。」 ― 例えばショールにしても、tamaki niimeの本質であり、同時に、氷山の一角であるみたいな。 酒井「そそそ、そうなんですよ。」 玉木「うん。」 酒井「それも僕らやし、でもその全然わからんとこも僕らやし。そうゆう色んな側面を…なんかブランディングで一個の側面をスタイリッシュに見せても、全然僕の中ではオモロくなくて、色んな側面があって、ちょっと理解し難いな〜と思われるくらいの方がブランドとしては面白いなぁと思うんですよね。」 ― 多面体みたいな感じで。 酒井「そう。ひとつの面を理解したと思ったらまた別の面に変わってる。」 ― 回転してるみたいに。 酒井「そう。それがtamaki niimeやな?…それがtamaki niimeやし、そうありたいって、たぶん玉木も僕も思ってるんですよ。」 ― なるほど。 酒井「だからこれからウチのスタッフが営業するなり人に伝えていくんやったら、そんな僕らの根底にあるものというかベースをわかってくれれば、たぶん考え方も変わるのかな〜って思ったりもします。」 ― そこって、根本の意識…ってゆうよりは、なんか感覚っていうか…ですよね? 酒井「ですです。」 型にはハマらない酒井語録ライヴ、さらに自由奔放に次回へと、〈続く〉
書き人越川誠司
Mr Yoshinori Sakai is the one who built the ‘tamaki niime’ brand with Ms Tamaki and poured his heart and soul into it. He has a unique creative spark and an unconventional sense. Ongoing discussions with Ms Tamaki became the source of energy for their fantastic development. In this episode of Encyclopedia of niime, we asked Sakai for details about his brand strategy that may not follow typical logic or traditional theories. With no mind to his surprisingly unrestrained remarks, we explore his words and try to understand the meanings behind them. —— Mr Sakai, your remarks that the branding of ‘tamaki niime’ is: the ‘art’ and ‘expression.’
- Sakai
- It is my expression.
- Sakai
- Yeah, I always try not to accomplish it.
- Sakai
- I believe in the phrase ‘Doubt the obvious’. I have kept my faith in ‘the completion of unfinished’.
- Sakai
- I would rather not give a precise definition, even though it was suggested I do so. I want to give people a chance to think about our products, who can see, choose and accept them. We have to gain the ability to ‘understand’. We live in a time where we need thinking habits. In the future, we would speed up the renewal of many things to simplify and automate. If we don’t create those habits now, I think we will lose them. I think we’d all become fools.
- Sakai
- That’s right. It would be too quick. That’s why I dare not accomplish it.
- Sakai
- So called-high fashion brands have consistent world values.
- Sakai
- They make you feel stereotypical.
- Tamaki
- Something like that.
- Sakai
- That’s right. I would dare not make such things. We don’t do it on Instagram or the works we have done so far, keeping the styles unfinished. I feel romantic with unfinished branding, and if there is an ultimate accomplishment in branding, we don’t need branding. It should be endless.
- Sakai
- That’s right, that’s right!
- Tamaki
- (quietly) …We destroy it quickly.
- Sakai
- I surely destroy it quickly, but not only me, but you also wouldn’t keep staying there, either.
- Sakai
- You are absolutely right.
- Tamaki
- We would get bored.
- Sakai
- Yes. We would. If we were asked if we were only a fashion brand company, we wouldn’t be the one, or if we were only a manufacturer, we wouldn’t be. Even Tamaki started saying that she wants to run a dairy farm.
- Sakai
- So, we have been branding with flexible, comprehensive range plans in that sense.
- Sakai
- We don’t tell people what we are like, but we are branding with a wide range to put in other elements. We keep it in mind.
- Sakai
- That’s right.
- Sakai
- Yes, I have it, basically. I wouldn’t say I like the same things that others have. Since my childhood, I chose B and C if my parents asked me to go to A. I have been like that. I have decided to go in other directions contrary to where our society is going.
- Tamaki
- Since when?
- Sakai
- I was like that ever since I could remember. That is how I am.
- Tamaki
- You are a contrarian, right?
- Sakai
- Am I?
- Tamaki
- You choose to go in the opposite direction as others. (laugh)
- Sakai
- I am not rebellious at all. I am not the type of person who has a rebellious spirit.
- Sakai
- I have naturally become who I am.
- Sakai
- That’s right.
- Tamaki
- There is a saying that there is a fine line between genius and madness.
- Sakai
- I spend money too easily.
- Tamaki
- He doesn’t have any idea how he should spend money.
- Sakai
- No, not at all.
- Sakai
- Yes, I think I could do that.
- Tamaki
- Everyone believed we could do it.
- Sakai
- Yes, I thought so.
- Tamaki
- I just told our staff, “Next person, I will ask you to do it.” And the staff replied, “What?! I don’t understand if you don’t explain to me one on one.”
- Sakai
- For me, I don’t like to be told to do this or that by Tamaki.
- Tamaki
- I would tell you by knitting my brows. (laugh)
- Sakai
- I would rather be told with simple words and wish she depends on me.
- Sakai
- That’s right. I would enjoy doing it that way.
- Tamaki
- It’s hard to ask him! He is easily upset with me.
- Sakai
- Yeah, that’s why I would say “No” if I were asked to do it.
- Tamaki
- You are a businessman.
- Sakai
- That’s why I can’t be a businessman.
- Sakai
- You are right. Because I have been living freely, I can’t get my jobs well done if I was forced to do so.
- Tamaki
- You mean if you were a bird in a cage.
- Sakai
- Yeah.
- Sakai
- It would be more fun that way.
- Sakai
- I must be a person who does it instinctively.
- Tamaki
- You have to explain well in Japanese because a very intuitive person has to explain the job to regular people.
- Sakai
- If I am allowed to say, my belief of branding or makers is losing their value when others understand them.
- Sakai
- You could say the same thing about artists. When they are understood, they lose their attractiveness. People feel attracted to the mysterious parts because they feel some shadows or something deep inside.
- Sakai
- That’s why I have been thinking, right?
- Tamaki
- (nodding)
- Sakai
- I may be repeating but we are trying to make people not understand us, even though people must understand us, somewhat, for example, our products are soft and comfortable, which is true, but when they see ‘tamaki niime’ in a comprehensive vision, we want them to feel we are a mystery. If they don’t, we lose that appeal.
- Sakai
- You are absolutely right.
- Tamaki
- Yeah.
- Sakai
- The one with the shawl character is obviously ours, but other aspects that make people wonder are ours. There are many aspects within us. Even though we display one of our aspects in branding, I am not satisfied at all. I feel thrilled if people think we are challenging to understand because there are various aspects within us.
- Sakai
- That’s right. Even though you thought to understand one of our aspects, we will change to another.
- Sakai
- You are right. That’s probably what ‘tamaki niime’ is, and Tamaki and I want to be like that.
- Sakai
- Therefore, when our staff does business or tells people what we are, if they come to understand our fundamental principles, they would change the way they look at us.
- Sakai
- You are absolutely right.
Original Japanese text by Seiji Koshikawa.
English translation by Adam & Michiko Whipple.